巻頭特別企画

秋田わか杉国体 少年男子優勝報告
日本一への軌跡を振り返る
秋田わか杉国体で21年ぶり4度目の優勝を成し遂げた東京都少年男子。
強豪揃いの全国大会で、東京が日本一になった要因は何だったのか。
チームを率いた田中康嗣監督、技術委員会の山下正人強化部長に振り返ってもらった。
 


一つになった個性が最高の結果をつかむ

――国体のチーム作りについて教えて下さい。
山下 前回大会から国体少年男子のカテゴリーがU-18からU-16になって、メンバー選考におけるトレセンの重要性が高まった。チームの主体となる高校一年生という年代は、ほとんどの選手が自分のチームで試合に出ていないわけだから。
田中 また、東京にはJクラブのユースも、強豪高校もあるので、新年度の段階で他県・外部からかなりの人数が入ってきます。そこは東京トレセンのスタッフである我々が把握しきれていないところなので、高校、クラブと情報交換を密にしていかなければいけません。その点で今回のスタッフは2種、3種、クラブの人間がバランス良くいるので連携がスムーズでした。
――関東ブロック予選までの強化スケジュールはどのようなものでしたか?
田中 3月から5月までは月2回、選手を集めて練習&セレクション。最初に50人ぐらいの「ラージグループ」を作って、関東トレセンマッチデー(関東の選抜チームによる練習試合)を何度かやって、メンバーを絞り込んでいきます。5月までの第1次選考で約30名になって、6、7月に最終的なメンバー18名(登録は16名)を決めます。
――関東ブロック予選大会で出場権を獲得しましたが、東京都としては、本大会の目標はどこに設定していたのでしょうか。
山下 優勝です。チームマネージメントは、選抜チームと自分のチームとでは全然違います。国体というのは選ばれた選手の集まりだから、目標はいちばん高いところに置かなくてはいけない。自分のチームだったら冷静に実力差を分析して「相手のほうが強い」という話もするけど、国体でそういう話は一切しない。彼らは「東京」の名前を背負っているわけですから。
――初戦の相手は鹿児島でした。
田中 初戦はいちばん怖い。何が起きるかわからないし、緊張もしているし、独特の雰囲気がある。そんな中で最初にウチが失点してしまった。その後はかなりシュートを打ったのに、ことごとく入らなかった。
山下 完全な負けパターン。最初から押しっ放しだったのに、前掛かりになったところでカウンターを食らって決められて。後半の35分が過ぎて「もう負けだよ。帰ろうか」なんて話をしていた。
田中 残り5分ぐらいで、DFを外して、田中を入れて3トップにした。ロスタイムになったところで、高木のシュートをGKが弾いたところを、その田中がつめて同点に追いついた。こういう大会では、「ラッキーボーイが必要だ」と山下強化部長がいっていましたが、まさにその通り。田中は延長戦でハットトリックまでしてしまった。
――2回戦では3点を先取しながらも、2点を取られて最終的には1点差で逃げ切りました。
田中 3-0になって、次の試合のために選手を代えようかと思っていた矢先に失点した。

山下 守りに入ったね。最初は前に出てディフェンスしていたのが、だんだんと下がってきて、バイタルエリアで自由にボールを持たれるようになった。若さも出たと思う。1点を取られても、勝ってるんだからやり直せばいいのに、それができず、2点目を取られてバタバタになっちゃった(苦笑)。あと5分あったら追いつかれていたんじゃないかな。
――苦しんだ1、2回戦を乗り越えての3回戦は、関東ブロック予選の事前合宿でも対戦した強豪の静岡でした。
田中 前半はまさしく静岡のペース。プレスに行ってもかわされて、ポンポンとつながれて。先制点も見事な形で決められた。チームの雰囲気は最悪で、ハーフタイムには選手同士が言い合いをするぐらい。ただ、何とか気持ちを切り替えて、前半を引きずりすぎなかったことが後半の逆転につながったと思う。苦しい時に頑張れるメンバーがたくさんいたのが大きかった。
――2-0で勝利した京都戦は、今大会の中で最も余裕のあるゲーム運びができたのでは?
田中 そうですね。いい時間帯に点も入って、4人を交代して休ませることもできた。
 京都のディフェンスはゴール前にブロックを形成するというものだった。パスで打開しようと思ったら崩すのは難しかった。でも、ウチのチームには個で打開できる選手がいたから。
――決勝の神奈川戦。田中監督にとっては特別な思い入れがあったのでは?
田中 昨年の関東ブロック予選で神奈川に0-5で惨敗したこと――あそこから始まっていますから。僕はいわば1回負けた監督。そんな僕にチャンスをもう1回与えてくれたからこそ、今回は絶対に勝たなくてはと、試合にも数多く足を運びましたし、監督ともたくさん話をした。それで結果を出すことができて嬉しかったですね。
 試合内容は五分五分でした。その中でウチが1点を先に取ることができた。だけど、最後に神奈川が怒涛の反撃をしてきた。少なくとも3本ぐらいは「やられた!」というシーンがあったけど、ゴールライン上でヘディングでクリアしたり、スライディングで弾き返したりして決めさせなかった。必死になって戦って、勝ちたいという気持ちがグラウンドに溢れていた。
――東京の少年男子にとっては21年ぶりの優勝です。この要因はどういうところにあると思いますか?
田中 チームが一枚岩になったこと。リザーブの選手、スタッフも含めて。点を取ったら試合に出ていない選手が自分のことのように喜んでいた。勝っていく度にまとまり意識が強くなって、「このチームで最後までやりたい」という気持ちが出てきた。それがいちばん大きかった。
 それから、我々が割り当てられた宿泊先が、4人部屋のコテージだったんです。テレビもない、コンビニもない。そういう環境ですから、試合が終わった後はお互いの部屋を行き来して、話をするようになる。そういうところからもコミュニケーションができてきた。都会で育った子たちですから、最初は「アウェーだ」っていってましたけどね(笑)。だけど、プラスの材料になる面があった。何がどう転ぶかはわからないんだなと。
山下 田中監督を始め、スタッフが足繁くいろいろな試合を見に行って、選手選考をして、個々のプレースタイルや性格をしっかり把握した。秋田に行ってからは、大会期間を通してどんどん一つのチームになっていった。
 選手たちは、監督やスタッフの言っていることを理解して、自分たちなりにやろうとした。勇敢で闘争心があったし、最後まで一生懸命頑張った。何よりもあの子たちは国体の選手に選ばれたことにすごくプライドを持って生活をして、試合に臨んでくれた。そういうところがうまく作用して、いちばんいい結果である「日本一」になることができた。
――来年以降のチーム作りはどのようにしていくのでしょうか?
山下 東京の特徴は”選抜チーム“でやること。単独クラブで固めるのではなく、トレセンをベースにいろいろなチームからバランス良く選んでいくという。東京は本当にいっぱいチームがあるんだから、あえて一つにすることはない。この2年間のやり方を、もう少し続けてみようかなと思っている。
田中 いろいろなところから集まった個性が一つになったら、すごい力を発揮するということを実感しました。今回、東京が選抜チームでこういう結果を出したのは、全国へのいい”発信“にもなると思います。

 



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