巻頭特別企画

第65回国民体育大会 千葉国体を振り返る
漆間信吾(成年男子監督)×川島弘章(少年男子監督)

「『神奈川を倒して優勝しよう』とずっと話していた」 少年男子・川島弘章監督
苦しい試合を乗り越えて一つにまとまったチーム
――昨年9月に開催された第65回国民体育大会(千葉国体)で、成年男子は5年ぶりに本大会出場して第5位入賞、少年男子は3年ぶりに全国優勝という素晴らしい結果を残しました。今回はこの大会について両監督にお伺いしていきます。まずは、どんな基準で大会登録メンバーを選んだのでしょうか?
川島 ベースにあるのは個人個人の力ですよね。攻撃にしても守備にしても自分の特徴を持っていて、それを試合で発揮できることが基本条件です。東京にはたくさんいい選手がいるので選考に悩んだんですけども、最終的には連れて行った選手がうまくはまったと思います。
漆間 私は3年前に少年男子が秋田で優勝したときはコーチとして、その次の年は少年男子の監督をやらせてもらいました。今回、成年男子の監督として声をかけてもらいましたが、少年男子は日常的にクラブとのやり取りがありますし、選手選考の苦労はほとんどなかったんですが、社会人の場合はチーム事情もあるのでそうではありません。幸いにも、嶺岸浩二さん、田中浩さんというコーチの方がずっと社会人に関わってきて、顔も名前も把握していたので、選手選考に関しては2人にお世話になることが多かったです。
――国体の監督としてのプレッシャーのようなものはありましたか?
川島 それほどプレッシャーは感じませんでした。ただ、去年はコーチとして少年男子に帯同して関東ブロック大会で敗退してしまいましたから、2年連続で落としちゃうわけにはいかないというのはありましたね。だけど、チームとしてきちんとまとまっていけば、個々の力を見れば関東ブロック大会は勝ち抜いていけると思っていたので、そんなにプレッシャーはありませんでした。むしろ、これだけ良い選手がいてチームになったら楽しいだろうな、という気持ちのほうが強かったですね。
漆間 出場枠に関しては少年男子のほうが社会人よりも多いですし、東京の力を純粋に引き出せれば、本大会に出られる確率は高い。しかし、成年男子は2枠しかないので関東ブロック大会を勝ち上がることが大変です。勝ったかどうかで今後の選手や、選手を出してくれる各チームの評価が変わってくるので、スタッフとは「何としても5年ぶりに本大会に行こう」と話していました。
――まずは関東ブロック大会から振り返って下さい。少年男子は勝てば代表決定という初戦で神奈川に負けてしまいました。その後、2試合を勝って本大会出場を決めました。
川島 3試合をやったことに関しては、結果論かもしれませんが、すごくプラスになったと思います。いっぱい試合をして苦しいところを乗り越えたことで、チームとして一段成長したかなと思います。もしも神奈川に最初に簡単に勝っていたら、苦しい試合を乗り越える経験ができませんでした。関東ブロック大会も、真夏の3連戦で苦しかったんですけれども、その前の強化合宿でも3連戦をしていたのでシミュレーションはできていました。
――成年男子は2試合を勝つことが出場条件でした。
漆間 今大会では登録メンバーが16名、交代は5人まで可能でした。普通の社会人の大会だったら交代は3人までしかできません。今回は5人まで交代できるということで、最初から2試合を考えた選手起用をしました。初戦に関してJFL勢はリーグ戦の疲れもあったので、先発で起用しませんでした。うまく勝ち切れればと思っていましたんですが、PK戦になるとは思いませんでしたね(笑)。
――1点リードしていたのに最後の最後というところで追いつかれてしまって。
漆間 そうなんです。でも、PK戦になったらGKを山下渉太から寺地廉に代えることは決めていました。だから点を取られた時点で寺地に交代の準備を始めさせて、落ち着いて対応することができました。初戦でGKも含めて16人全員を使って勝てたことはチームがまとまる上では大きかったのかなと思います。
――出場決定戦ではJFLの単独チームだった栃木と当たりました。
漆間 技術的なことや戦術的なことでは劣っていないと思っていましたが、体力的なところでは心配もありました。しかも、相手は1試合目でこちらは2試合目でしたから。ただ、1週間前に横浜FC、駒澤大学と練習試合を連戦でやっていたので、それが生きたかなとは思います。実際に足が止まったのは相手のほうが先でしたからね。
――少年男子と成年男子の共通点として1試合目が苦しい試合になったことが挙げられると思います。そういうのを乗り越えるのはチームにとってプラスになる部分があるのでしょうか?
漆間 間違いなくあると思います。3年前に少年男子が優勝したときも0―1で鹿児島に負けていて、後半ロスタイムに追いついて延長戦で勝ったりとか、苦しい試合を乗り越えていく経験がどこかにあるものなんです。

「『神奈川を倒して優勝しよう』と ずっと話していた」少年男子・川島弘章監督
国体で勝つために必要なものとは?
――出場決定から約1カ月後に本大会に臨みました。
川島 初戦の京都戦でPKまで行きました。このゲームがいちばんどっちに転ぶかわからない試合でした。初戦だったのでどっちも慎重になって探り合いのような試合になりました。その中でPKながら勝ち抜けたことは大きかったですね。京都のほうはPKのキッカーが決まってたみたいで、早々にピッチに出て行って円陣を組んでたんですが、こっちはなかなか決まらなくて審判に早く出ろと言われるぐらいで……。ここを勝ったことで勢いに乗れました。

――準々決勝で福島に勝利して、準決勝では関東ブロック大会で負けている神奈川と当たりました。
川島 最初に当たった京都が強敵だったので、そこを勝てればベスト4が見えるかなとは思っていました。関東ブロック大会が終わって、みんなで集まるたびに、「神奈川を倒して優勝しよう」という話はしていました。実は関東トレセンリーグで最初に神奈川と当たって1―6で大敗したんです。私たちも選手もショックを受けたんですが、あそこがターニングポイントになったと思います。
――そして神奈川に2―0で勝利。決勝では大阪を2―0で下して日本一になりました。今回のチームは例年のチームと比べて際立っている実力はありましたか?
川島 そんなことはありませんでした。実力的には3年前のチームのほうが強かったと思います。ただ、自分はこのプレーしかできないというのではなく、いろいろな役割をこなせたのが最終的な勝因だと思います。サイドバックが上がったらFWのプレーをするし、中盤の選手がDFのプレーをすることもある。そのあたりを全員が理解してやってくれたことが大きかったですね。
――成年男子は1回戦で高知に勝利して、準々決勝では地元の千葉と戦いました。
漆間 JFLのジェフリザーブスの選手を中心に順天堂大学や横河武蔵野FCの選手などが補強されたメンバーでした。前半から結構押し込んだのですが決められず、後半に入って最後の最後のロスタイムで入れられてしまった。私もコーチの経験は長いですが、ゴールと同時にタイムアップになったのは初めてでした。延長に入ればPKの可能性もあったとは思うだけに残念ですね。
――それでも、5年ぶりに本大会に出たこと、1回戦を勝ったことは大きな成果だと思います。
漆間 東京の場合はいろいろなチームからの寄せ集めになります。今回も関東1部・2部、東京都、大学と様々なカテゴリーから集まっていましたが、全員が「東京」のために全力を出してくれる選手だったことが大きかったと思います。最年少で選ばれた早稲田大学の2人は少年男子のときに国体に出てるんですよね。その分、国体に対する気持ちが強かったと思います。
――改めて今回の国体から学んだことを教えていただけますか?
川島 ただのサッカー大会ではなくて、いろいろな方が関わって国体というのは成り立っています。「東京」というものがまとまってやるものだというのを強く感じました。私が普段指導しているチームはそこまで勝負にこだわるチームではないのですが、今回のような場合は結果を出さなければいけません。そういうときにどういうプランを立てるのか、実際の試合の中でどうやって選手を起用するのか、そしてどうやって勝利するのか。指導者として今までにない経験ができて、いろいろなことを勉強させてもらいました。
漆間 東京の成年男子は他の県に比べたら厳しい状況にあると言えるかもしれません。それでも、相手のほうが実力は上でもチームとしてまとまれば上回ることができる。チームになること、お互いに信頼すること、最後まであきらめないことの重要性を改めて教えてもらったなと思います。
――本日はありがとうございました。