選手の目線は大事にしたい
――今日の練習中も選手と一緒にボールを蹴っているシーンが多かったのですが、城福監督は今でも選手の目線を大事にしているのでしょうか?
城福 はい。選手がどう感じているのかは大事にしたいと思っています。これは選手に変にすり寄るという意味ではなくて、自分がプレーすることでわかることもあるから。終わった後にスタッフとボール回しをするのも、体が動かないようになりたくないのと、サッカーの楽しさを味わい続けていたいなと。
――練習よりボール回しのほうが長くなることもあるとか……。
城福 あります(苦笑)。ボール回しは選手の気持ちを理解するという面もありますし、サッカーをやる中で、こうなるとこうだよなというのが肌でわかる。いちばんは自分のストレス発散法なんですが(笑)。勝っても負けても、何連勝しても何連敗しても必ずやると決めています。
――城福監督は富士通で選手、コーチ、監督を務めた後、1998年にFC東京の前身の東京ガスに入りましたが、当時からプロの指導者になるという気持ちが強かったのでしょうか?
城福 富士通の社員を辞めて東京ガスにいくことになった時点で、それなりの覚悟はありましたが、イコール、「指導者になりたい」というわけではありませんでした。ただ、自分の中ではサッカーをもっと突き詰めたいという気持ちがありました。富士通のころも監督やコーチとして頑張ってきたという自負はあったけれども、サッカーのことはまだまだ勉強不足だった。ですので、東京ガスに入るにあたって「S級(ライセンス)を受講させてほしい」ということだけをお願いしました。
――城福監督はS級ライセンスを取るにあたって、どのような姿勢で取り組んだのでしょうか?
城福 私の中の目標は「何が何でもトップで受かること」。具体的な成績は聞いていないのでわかりませんが、取り組む姿勢だけは誰にも負けないつもりで受講しました。それまではテキストみたいなものはサッカーにない、教わるものなんてあるのかというのが表には出さないけれどどこかにあったのですが、S級を受けていた3カ月間はとにかくサッカーを学ぼうと。どんな講義も自分の身になると思って聞いていましたし、課題も自分の分だけじゃなくて人の分まで手伝いました。
――S級ライセンスのトップ合格を目指すことによって何を得たのでしょうか?
城福 この人が何を要求しているのか、何を伝えたいのか、評価の基準は何なのか。そこを突き詰めると見えてくるものがある。もしかしたら反面教師かもしれないけれど、それでもいい。その人の懐に入っていかないと、それも見えてこない。わかったつもりでいても何もわからない。S級に関しては私はそういうやり方を選んだわけです。
――S級ライセンス取得後の99年からは日本サッカー協会のナショナルトレセンコーチに就任します。協会のスタッフとして働く中でどんなことを学んだのでしょうか?
城福 ナショナルトレセンコーチは9地域あって、私は関東担当だったんですけれど、当時のコーチはほとんどがJリーグの監督になっています。協会の中では指導の指針を作ることも大事な仕事です。みんな個性的で自己主張もあって、だけど、何かを仕上げていかなければいけない。そういうことをみんなでやりきり、いろいろな人間の考え方に接することができたのは勉強になりました。
それから、協会スタッフのいちばんの特権はいろいろなチームを見に行けること。Jクラブの下部組織にも高校にも小学生のチームにも行ける。どんな環境でやっているのか、どんな指導者がいるのか、そういうことに接することができる。ナショナルトレセンコーチの仲間や、地域の指導者に接した財産はすごく大きかったと思います。
――いろいろな環境があって、いろいろなタイプの指導者がいたと思うのですが、他の指導の現場を見に行くのはオススメできますか?
城福 見に行かないよりは見に行ったほうがいい。ただ、同じものを見ても感じることや量は人それぞれ。例えば、ベンゲル(アーセナル監督)のところで学んだ人がベンゲルのようになるかといったらならないわけでしょう。このコーチはこういうコーチングをするのか、選手がどんな発想でやっているのか。見ようとすれば見えてくるし、見ようとしなければ見えてきません。何を感じるかは自分が決めること。それは誰も強制できなければ、手伝ってあげることもできない。
――ちなみに、どういうところを城福監督は重点的に見ているのか教えてもらえますか?
城福 テクニカルなところはもちろん見ます。ただ、それ以外では選手がどういう表情でやっているのかを見るようにしています。やらされているのか、自分からやっているのか、この試合に勝ちたいと思っているのか、誰かが視察に来たからやっているのか、指導者の考えが伝わっているのか、全員なのか一部の人間なのか、どういう伝わり方をしているのか……。それは私自身も監督をしながら気にするところです。
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