TOKYO FA's Pick UP

東京に緑の芝生を増やそう!!
緑の芝生の上で走り回り、転げ回る子供たち――。
今、東京ではこんな光景が学校のあちこちで見られるようになっている。東京都が推進している「校庭の芝生化」プロジェクトによって、学校の校庭を芝生にするところが増えているのだ。 東京都サッカー協会も「東京芝生応援団」「JFAのポット苗方式芝生化モデル事業」という2つの事業を支援し、芝生の校庭化を積極的にサポートしている。今回は今年の6月に“芝生開き”をしたばかりの新宿区立四谷第六小学校の高橋英明校長に話をうかがった。


 お昼休みになると、給食を食べ終わった子供たちが校舎の中から次々と外に飛び出してくる。子供たちが一目散に目指すのは校庭の中心部に敷き詰められた、1239㎡の緑色の芝生だ。バランスボールで遊んでいる子もいれば、虫取り網でトンボを捕まえようとする子もいる。校庭の角では三角ベースが繰り広げられ、鬼ごっこに夢中になっているグループもある。  裸足になっている子供も珍しくない。とにかく芝生の上で遊ぶことが楽しくて仕方がない様子だ。そんな子供の姿を見ながら目を細めていたのは、校庭を芝生にすることに踏み切った四谷第六小の高橋校長だ。
「芝生にする前のゴムチップ舗装の校庭は老朽化していたので、改修をしようとは思っていたんです。そこに東京都から校庭を芝生にする学校を募集するという話がありました。芝生にすることで地域の緑が増えるし、何よりも子供たちが芝生の上で遊ぶことができる。これは素晴らしいことだと思って手を上げました」
 芝生を育成するために大事な日照時間や地域住民との協力関係などの諸条件をクリアし、校庭芝生化の工事を行ったのは今年3月のこと。それから2カ月間の養生期間を経て、6月1日に〝芝生開き〟となった。 「芝生にする前と後で最も変わったのは、子供たちが優しくなったことです。芝生は生きていますから、乱暴に扱えば痛んでしまう。そういった中で、生き物を大事にする気持ちが自然に芽生えているのだと思います。休み時間に外で遊ぶ子の数も格段に増えましたね。特に高学年の女子は教室で過ごす傾向が強かったのですが、芝生になってからは積極的に外に出てくるようになりました」
 芝生化をする際に最もネックになるのがメンテナンスである。芝生を良いコンディションに保つためには、水やり、芝刈りなどの作業が必要不可欠。現在、四谷第六小ではPTAや地域住民と協力して定期的にメンテナンス作業を行っている。
「7月21日〜8月24日の夏休みの期間は4回芝刈りをしました。地域の方々にお手紙を出したところ、30人ぐらいが来てくれて、あっという間にやってくれました。本当にありがたいことです。まだまだ芝生にしたばかりで手探りです。これからがどのように育てていくかが大事だと思います」
 四谷第六小は〝日本サッカーの聖地〟国立競技場から徒歩5、6分のところにある。高橋校長は芝生のプロである国立競技場のスタッフに相談に乗ってもらうなど、協力体制を築いている。まさに地域全体で芝生を育てているのだ。
「芝生を育てることによって、その中で遊ぶ子供も育つと私は言っています。保護者や地域のみなさんが育てているのは芝生を通した心と体です。まだスタートしたばかりですが、この素晴らしい環境を大事にしていきたいと思っています」
〝緑のじゅうたん〟で元気良く遊ぶ子供たちの光景が東京中、日本中に広がっていってもらいたい。




国立競技場技術主幹
鈴木憲美氏インタビュー

 東京都の校庭芝生化には、〝日本サッカーの聖地〟と呼ばれる国立競技場と同じ種類の苗「ティフトン419」が使われている。この国立競技場のグラウンドを40年以上に渡って管理してきたのが、グラウンドキーパーの鈴木憲美氏である。日本の芝生における第一人者の鈴木氏に芝生の心得を聞いた。
「私が国立競技場に入ったのは1964年の東京オリンピックの後ですから、40年以上前になります。その間は試行錯誤の連続でした。最初の転機は1969年にティフトンという夏芝に変えたことです。しかし、この芝の欠点は夏は良くても冬に枯れること。どうしても冬の間は見栄えが悪くなってしまう。
 1981年にヨーロッパと南米のクラブ王者によって世界一が争われるトヨタカップが日本で開催されるようになったときに、ヨーロッパの選手に『明日の会場はどこだ?』と聞かれたわけです。どうしてと聞き返すと『だって芝生がないじゃないか』と。あの言葉は忘れられませんねぇ(笑)。
 そこで1989年、今では主流になった〝二毛作(ウインターオーバーシーディング)〟という夏芝と冬芝をミックスする方法を取り入れました。今では当たり前になった1年中ピッチが緑に保たれているようになったのはこれからです。
 私は今年度で退職します。国立競技場の芝生は私にとって人生そのもの。毎日競技場の芝生の様子を見るのが楽しみでした。これからはスタンドから、国立の芝生を見守っていきたいと思います」。